耐震マット(ジェル)の基礎知識
地震の被害を最小限に抑えるための転倒防止グッズのひとつに、〝耐震マット(ジェル)〟があります。
ワイヤーやL字金具とは違い、工具不要で手間要らず、家具や壁に穴を開ける心配もないため、売れ行きも好調のようですが、使い方を間違えると、せっかくの耐震効果も十分に発揮することができません。
そこで、耐震マットはどのような家具や家電に適しているのか・・・
また、貼り方(位置の目安)や剥がし方のコツについて一例をあげておくので、耐震マットの使用を考えている方は少し参考にしてみてください。 |
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耐震マットは特殊な粘着性のある素材(ウレタン樹脂やイソブチレン樹脂、シリコン樹脂など)で出来ており、固体でありながら硬過ぎず、ゴムのように弾力があるのが特徴です。
そのため、家具や家電の底面に貼り付けて置くだけで、一定の振動による転倒やズレを防ぐ効果が期待できます。
ちなみに、市販の耐震マットの大半は、阪神大震災クラスの揺れを想定した
震度7レベルでも耐えられることをウリにしており、マットサイズや貼る枚数を調節することで、様々な家具・家電に対応可能であることをアピールしているため、使用者はその言葉を鵜呑みにし、すっかり安心しきっている方もいるかもしれませんが、耐震マットさえ貼れば家具・家電は絶対に倒れない(ズレない)という保証はありません。
もしあなたが前に購入した耐震マットの取扱説明書などがまだ残っているようなら、改めて製品の特長や使用上の注意書きを読んでみてください。
私の手元にある商品のように〝最小限〟といった言葉が使われていないにしても、おそらく同様の言葉(軽減など)が記載されているのではないでしょうか。
確かに耐震マットを使うことで一定の転倒防止やズレ防止効果は期待できますが、地震の規模や揺れの方向、あるいは、どんな種類の家具・家電に貼り付けたかによってマットがあまり役に立たないケースも出てきます。
もう少し正確に説明すると、製品自体の効果に問題があるというよりも、マットを貼り付けた家具家電の底面や床に問題があるということです。
では、どの辺りに問題があるのか・・・
まずは家具の方から説明しましょう。
市販の大型家具の中には、底面の四隅に捨て板と呼ばれる板がタッカー(ホチキスのようなもの)や接着剤などで簡単に留められているものも少なくありません。
ところが、この板は家具が安定して置けるように打ちつけた薄っぺらいベニヤ板などの素材であることが多いため、当然、大きな振動に耐えられるだけの強度はありません。
つまり、この捨て板に耐震マットを貼り付けて設置してしまうと、切れ端だけがベリッと剥がれて家具が転倒する恐れが出てくるため、地震の規模にもよりますが、耐震マットを貼り付けた意味がありません。
したがって、大型家具の底面にすぐ外れてしまいそうな板が打ちつけてあるような場合は、まずその切れ端を外し、家具の底面に直にしっかりと貼り付けることです。(もし外せないような場合は、L字金具など、マット以外の耐震グッズの使用をお勧めします)
では、捨て板に貼らずにすむ家具であれば、耐震マットで安心なのかというと、そんなことはありません。
たとえ家具にしっかりと貼り付けても、床の方に問題があれば、やはり家具は倒れてしまいます。
カーペット(畳の場合は各製品の用途を確認してください)は耐震マットの粘着力が十分に発揮しないのは言うまでもありませんが、フローリングであっても、材質によっては思わぬ落とし穴があります。
つまり、フローリングに使われる床材や貼り方によっては、大地震の際に、家具が上下左右に激しく揺さぶられると、家具の重みに耐えられなくなった床材の表面だけが剥がれてしまい、家具が転倒するという事態が起こるわけです。
したがって、耐震マットの性能そのものは震度7クラスの振動に耐えられる作りになっていたとしても、貼り付ける家具や床材に強度不足や問題があると、家具は転倒してしまいます。
そのため、耐震マットが適している家具・家電とは高さのない家具や電子レンジ、テレビ、パソコンなどの小型の家電製品に有効なグッズと言えるので、全く効果がないとは言い切れませんが、背丈以上の高さや重量のある食器棚、洋服ダンスといった大型家具には不安の残る耐震グッズと言えるかもしれません。
耐震マットを高さや重量のある大型家具・家電に使用するには注意が必要ですが、さほど大きくはない小型(あるいは中型や高さのない)家具・家電にはそれなりの効果が期待できます。
しかし、最近はデザインの凝った家具・家電も目立つので、耐震マットを使うにしても、いったいどの部分に貼り付ければよいのか迷ってしまうという人もいるはずです。
基本的に正方形(あるいは長方形)の家具・家電の場合は、四隅に貼るのが基本ですが、複雑な形状をしている家具・家電ともなると、単純に四隅に貼り付けただけでは、十分な効果を発揮しないことも考えられます。
特にメーカーによってデザインが大きく異なる薄型テレビなどがよい例です。
そこで、参考までに耐震マットをテレビ台のどの位置に貼り付ければよいのが、その一例を紹介しておきます。
なお、家具・家電に耐震マットを使用するような方は、他にも次のような点にも十分注意が必要です。
- 製品に記載されている耐加重は必ず守ること!耐加重以上の圧がかかるとマットが潰れてしまい、本来の効果を発揮できない!
- 耐震マットも劣化するため、本来の効果を維持するためには、定期的(商品にもよるが5年程度?)に新しいマットに貼り替えること!
では、次に耐震マットの剥がし方について少し触れておきましょう。
家具・家電の底面に貼り付けて置くだけという手軽さがウリの耐震マットですが、実は、いざ!剥がすとなると一筋縄ではいかないケースも少なくないようです。
特に重量のある家具・家電に長期間使用し続けていた場合、接着面の家具底や床材の表面を傷つける恐れがあるため、勢いに任せて無理に剥がすような行為は避けるべきだという意見も多数見かけます。
そこで、どうもピッタリと貼り付いているようで、家具や床材の方まで剥がしてしまいそうだと心配になったときは、どのように対処すればよいのか、一般的に知られている耐震マットの剥がし方のコツについて紹介しておきましょう。
破損してもよいテレホンカード(ポイントカードやプリペイドカードなどでもOK!)のような薄いプラスチック製のカードを1枚用意。
小さめの容器に水(状態によっては中性洗剤も混ぜる)を入れ、カードを浸してよく濡らす。
濡らしたカードを設置面の間に差し込み、徐々に剥がれてきたら、その隙間に下敷きや厚紙などを挟んでおく。
※ テレホンカード系の薄いカードでは、グニャグニャと曲がってしまい、接地面にうまく差し込めない場合もあるので、そういう場合は先端が斜めにカットしてあるヘラのような硬めのもので試してみてください。
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耐震マットとはいったいどんなものなのか…
本当に耐震効果はあるのか、それともないのか…
気になったので、実際に使ってみることにしました。
今回、私が購入した耐震マットは㈱アクティーの『耐震くん』です。
マットサイズの異なる商品が何種類か販売されているようですが、とりあえず25mm四方のものを使用することにします。
では、さっそく耐震マットを取り出し、いろいろと試してみましょう!
まず外見ですが、これは最も多いタイプのようで、半透明のさわやかなクリアブルー色です。
粘着力も適度にあり、手に取るとすぐに貼り付き、なかなか指から離れません。
かといって、手から離した後もベタ付き感が残るというわけではないので、不快感はまったくありません。
また、柔軟性をチェックしてみたところ、曲げようが、引っ張っろうが離せばすぐに何事もなかったかのように元の形に戻ります。
耐震マットは適度に弾力があり、また柔軟性にも優れているようで、グミのような感触といったところでしょうか。
次に、耐震マットは汚れても洗えば何度でも使えるということなので、その性能を確かめるべく、これでもか!というほど土(なぜ土?といったツッコミはしないでください…)を振りかけてみました。
室内で普通に使用する分には、まずあり得ない状況ですが、こうなるとさすがにもうかつての粘着力はありません・・・
では、さっそく検証に入るため、泥まみれになった耐震マットを水道で洗い流すことにしましょう。
するとどうでしょう!
耐震マットは、かつての輝きを取り戻しただけでなく、粘着力の方も土で汚す前の状態に戻っています。
念のため、5回ほど繰り返してみましたが、結果は同じ…
耐震マットが汚れて粘着力が低下したとしても、洗うことで繰り返し使えるという説明にウソ偽りはなさそうです。
では、『耐震くん』の大まかな特徴や性能について掴んだところで、今度は実際に家具に貼り付け、その転倒防止効果などを見てみたいと思います。
今回入手した耐震マットはサイズが小さめで耐荷重が24kg(6枚使用)ということなので、あまり大型の家具には使用できません。
そこで、部屋の周囲をグルッと見回してみたところ、手頃な大きさの木製家具があったのでその家具に貼り付けてみることにしました。
アクリル樹脂やプラスチックなどには相性が良いようで、ちょっとやそっと力を加えて押した程度では、まず転倒したりズレが生じるようなことはありません。
高い粘着力を発揮しており、非常に安定感もあります。
さて、この耐震マットですが、長期間使用し続けても性能が低下することはないのか・・・
それを確かめるため、この状態でしばらく放置することしました。
そして、1年間放置した耐震マットの状態が、コチラです。
家具の圧が掛かっていた部分に凹みが見られますが、それ以外の部分は、若干埃などの汚れが目立つだけで、1年程度の期間では亀裂や吸着力に大きな変化(低下)は見られませんでした。
しかし、耐震マットもいずれは劣化による性能低下が起こるようなので、ある程度、時間が経ったら定期的に交換した方が良さそうです。
なお、耐震マットを長期間使い続けていると、接着面に色移りすることもあるようですが、今回の実験では特にそのような色移りも見られませんでした。
※ 『耐震くん』の場合、吸水性の高いもの(大理石、畳、紙、桐製品など)に対しては色移りする場合があるようなので、家具や床の色移りは困るという方は、使用する前に注意が必要です。 |
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