マンション暮らしを選んだ方の間でも意見が割れるテーマですが、地震保険への加入が強制ではなく任意である以上、結局のところ、契約するかどうかは各自で判断するしかありません。
ただ、マンションならではのルールが存在するため、戸建てと少し違った見方をする必要がありそうです。
そこで、マンション住まいの方が地震保険の必要性について考える際、これだけは知っておいてほしい基礎知識やポイントについて解りやすくまとめておくので、地震保険に加入するかどうか迷っているという方は、少し参考にしてみてください。
火災保険では補償されない地震や噴火、津波を原因とした損害を対象とする地震保険の仕組みや住居(戸建 or マンション)にかかわらず知っておきたい基礎知識については、別ページで説明しているので、関心のある方はそちらの記事(地震保険とは?)をご覧ください。
ここではマンション住まいの方が押えておきたい地震保険の基礎知識(ただし、内容によってはかぶる)についてまとめておきます。
地震保険を契約する際、マンションが戸建てと大きく異なる点は「共用部分」と「専有部分」に分かれることです。
「共用部分」と「専有部分」の主な特徴については下記表のとおりですが、「共用部分」は、通常、管理組合が加入(中には共用部分も各所有者が加入しなければならないケースもあるようなので心配な方は確認を!)することになるため、マンション住人が個人で判断して契約することができるのは「専有部分」のみとなります。
区分 | 契約者 | 補償内容 |
専有部分 | 居住者 (所有者) |
・建物(居住スペース) ・家財 |
共用部分 | 管理組合 | ・外壁 ・エントランス ・ロビー ・廊下 ・エレベーター ・集会室 ・管理人室 …など |
つまり、「共用部分」はあなた一人の考えで自由に加入の有無を決めることができないため、住人の多くが反対している場合は「共有部分」の地震保険に入ることはできません。
そのため、仮にあなたが「専有部分」の地震保険に加入したとしても、外壁やエレベーターなどに大きな損害を受けた場合は、費用の一部を地震保険でカバーするということができないため、状況によっては難しい判断を迫られるケースも出てくるでしょう(ここに自分ではどうすることもできない集合住宅ならではの悩みがある)。
※補足:管理組合が「共用部分」の地震保険に加入すれば、その分、管理費などが上がってしまうため、反対する住民は思いのほか多く、マンション共用部分の地震保険加入率は約37%(平成26年度:損害保険会社4社調べ)と関心は低い。
先にマンション住まいの方が個人の判断で契約できる地震保険は居住スペースの「専有部分」のみと言いましたが、地震保険の対象となるものは「建物」と「家財」に分かれます。
つまり、建物と家財の両方に保険を掛けたいという方は、それぞれ別々に契約する必要がある(保険料は2倍)ということです。
なお、地震保険は、あくまで被災された方の当面の生活をサポートすることが目的の保険であり、火災保険のような明記物件(高価な貴金属、美術品など)などはないため、補償内容の違いに注意が必要です。
※補足:地震保険の「家財」に関する基礎知識は、こちらの記事(家財編)をどうぞ!
地震保険の保険料は、どの保険会社で契約しても金額は変わりませんが、建物の構造(木造・非木造)や地域(都道府県)によって大きな差が出てくることもあります。
参考までに、2019年1月1日以降の契約に適用される最新の地震保険料(今後、さらに改訂予定あり)の一部を表にまとめておきますが、建物の構造に関しては、戸建てとは違い、通常、分譲マンションは保険料の安い耐火構造になっているはずなので、マンション住まいの方は、基本的にお住まいの地域で保険料が決まることになります。
\ | イ構造 (耐火) |
ロ構造 (非耐火) |
||
改定前 | 改定後 | 改定前 | 改定後 | |
岩手、栃木 など | 6,800 | 7,100 | 11,400 | 11,600 |
福島 | 7,400 | 8,500 | 14,900 | 17,000 |
北海道、京都 など | 8,100 | 7,800 | 15,300 | 13,500 |
宮城、大分 など | 9,500 | 10,700 | 18,400 | 19,700 |
愛媛 | 12,000 | 12,000 | 23,800 | 22,400 |
大阪 | 13,200 | 12,600 | 23,800 | 22,400 |
茨城 | 13,500 | 15,500 | 27,900 | 32,000 |
徳島、高知 | 13,500 | 15,500 | 31,900 | 36,500 |
埼玉 | 15,600 | 17,800 | 27,900 | 32,000 |
愛知、三重、和歌山 | 17,100 | 14,400 | 28,900 | 24,700 |
千葉、東京、神奈川、静岡 | 22,500 | 25,000 | 36,300 | 38,900 |
かつては損害保険料控除という制度がありましたが、平成18年度の税制改正により廃止されてしまいました。
そのため、火災保険などの損害保険料は翌年度(平成19年度)から控除対象外となってしまいましたが、新たに地震保険料控除制度が誕生したため、現在、地震保険に加入している方は、1年間(1月1日〜12月31日)に支払った保険料に応じて所得控除の対象となります。
\ | 支払った保険料(1年間) | 地震保険料控除の金額 |
所得税 | 5万円以下 | 支払った金額 |
5万円超 | 5万円 | |
住民税 | 5万円以下 | 支払った金額の半分 |
5万円超 | 2万5千円 |
金額的には微々たるものですが、制度がある以上、利用しない手はないので必要な書類を用意して忘れずに申告しましょう!
戸建てよりも複雑(特に共用部分は何かと揉めることも…)な立場に立たされるマンション暮らしに地震保険は必要ない!という考えの方も少なからずいますが、地震保険への加入が強制ではない以上、それも選択のひとつです。
しかし、入る入らないは別として、マンション暮らしの方でも地震保険の加入の有無を検討してみる価値がある人はいます。
そこで、地震保険の必要性を考える上で欠かせない判断材料をいくつか挙げておくので少し参考にしてみてください。
地震保険の必要性を判断する上で、まず最初に検討したい事項は住宅ローンです。
戸建てと同じく分譲マンションも通常は住宅ローンを組んで購入することになると思われますが、大地震や噴火などの自然災害で住居が損害を被っても、住宅ローンの返済がなくなることはありません。
つまり、マンションに住めない状態になってしまった場合は、被災後の住居費と住宅ローンの支払いという二重の負担が発生してしまうため、貯蓄が少ない場合は路頭に迷うことになります。
そのため、特に住宅ローンを組んで間もない方や残債が多いという方は、地震保険で支払われるまとまった保険金が役立つこともありそうです。
大規模災害により、マンションで生活することができなくなってしまった場合であっても、いつまでも避難所生活(地域の集会所や体育館など)というわけにもいかず、被災後の住まいを探さなければなりません。
場合によっては無料の仮設住宅などに入ることができるかもしれませんが、それも一時的なものであり、入居者数も限られてきます。
そのため、当面、身を寄せる先がない(家族や親戚、友人など)という方は、家賃など生活に必要なある程度まとまったお金が必要になることから、貯蓄に不安があるという方は、地震保険の保険金が多少なりとも役立つはずです。
会社から給料が支払われるサラリーマンとは違い、個人事業主やフリーランスのような方が大規模災害に襲われると、事業内容によっては、突然、収入が絶たれてしまうことも考えられます。
生活に困らない程度の蓄えがある(あるいは、複数の収入源がある)場合は、それほど問題となりませんが、貯蓄が少ない方(特に家族がいる)は困窮してしまうため、地震保険に加入していると、使い道の自由な保険金を当面の生活の足しにすることができます。
地震保険には住宅(マンション含む)の免震・耐震性能に応じて、次のような各種割引制度が用意されています。
種類 | 割引率 | 適用条件 |
免震建築物割引 | 50% | 「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」に規定された免震建築物である場合 |
耐震等級割引 | 耐震等級1:10% 耐震等級2:30% 耐震等級3:50% |
「品確法」または「耐震診断による耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)の評価指針」に基づく耐震等級を有している場合 |
耐震診断割引 | 10% | 地方公共団体等による耐震診断または耐震改修の結果、改正建築基準法(昭和56.6.1施行)における耐震基準を満たす場合 |
建築年割引 | 10% | 昭和56.6.1日以降に新築された建物である場合 |
また、先に示した地震保険料表からも分かるように、建物の構造や都道府県によって金額が異なるとも説明しました。
これは裏を返せば、割引制度に該当しない建物や他のエリアに比べて保険料が高い地域は、災害により大きな損害を被る(大地震の起こる確率が高い)恐れがあることを意味します。
そのため、むしろ支払う保険料が高額になってしまう方こそ、いざという時に地震保険で受け取ることができる保険金が当面の生活に役立つ場合もあるでしょう。
割引制度の有無や保険料の差からは見えてこないものに地盤≠竍地形≠ネどがあります。
地盤が緩かったり、洪水や土砂崩れなどが起こりそうな地形にマンションが建っている場合は、大規模な災害が起こると思いもよらない損害を被るリスクが高まるため、地盤や地形によっては地震保険を検討してみる価値はあるでしょう。
地震保険の加入の有無を検討する上で忘れてはいけないことは、あくまで当面の生活を支える保険に過ぎない!という点です。
地震保険の保険金額は、火災保険の30〜50%(ただし、建物:5,000万円 / 家財:1,000万円が上限)の範囲内であることと規定されているように、受け取ることのできる保険金は自ずと限度があるため、損害をすべて保険金でカバーすることはできません。
また、支払われる保険金額も損害の程度(損額区分)によって大きく変わってくるため、必ずしも満足のいく保険金が受けられるとは限りません。
区分 | 損害状況 | 支払われる 保険金額 |
|
全損 | 建物 | 主要構造部の損害額が、その建物の時価額の50%以上、または焼失あるいは流失した部分の床面積が、その建物の延床面積の70%以上 | 契約金額の 100% |
家財 | 損害額が家財の時価額の80%以上 | ||
大半損 | 建物 | の主要構造部の損害額が時価の40%〜50%未満、焼失もしくは流失してしまった部分の床面積が、その建物の延床面積の50%〜70%未満 | 契約金額の 60% |
家財 | 損害額が家財の時価額の60%〜80%未満 | ||
小半損 | 建物 | の主要構造部の損害額が時価の20%〜40%未満、焼失もしくは流失してしまった部分の床面積が、その建物の延床面積の20%〜50%未満 | 契約金額の 30% |
家財 | 損害額が家財の時価額の30%〜60%未満 | ||
一部損 | 建物 | 主要構造部の損害額が、その建物の時価額の3%〜20%未満、床上浸水あるいは地面から45cmを超える浸水 | 契約金額の 5% |
家財 | 損害額が家財の時価額の10%〜30%未満 |
建物 | 地震保険の補償対象は建物を支える主要構造部(基礎、柱、外壁、屋根など)に限られるため、主要構造部に問題がないと判断された場合は、それ以外の構造部に損害が見られても保険は適用されない… |
家財 | 家財:5つのジャンル(食器陶器類・電気器具類・家具類・その他身の回り品・衣類寝具類)に分類し、加算方式で査定。分類ごとに構成割合が決まっており、破損した家財の数を掛けて「一部損」に入る10%以上の損害があった場合に保険金が支払われる… |
特にマンション住まいとなると、個人ではどうすることもできない共用部分で何かと揉めることも多く、たとえ個人で加入(専有部分)していても、支払った保険料に見合わないケースも出てくる(金額以外の面も含む)ため、とりあえず地震保険の「家財」のみ入っておくという方法も選択肢の一つです(保険料を少しでも抑えたいという方は1年契約よりも長期契約がお得(ただし、火災保険の保険期間によっては長期契約できない)!)。
以上、分譲マンションにおける地震保険の必要性について説明してきましたが、地震保険は火災保険に比べて加入者が支払うべき保険料に割高感があるため、災害後の資金面や住まいに見通しが立っているなら、地震保険に加入する必要性は低いという見方もできます(結局は自分で判断するしかない…)。
住宅ローンはほぼ完済しており、十分な貯蓄がある! 複数の収入源がある! いざという時に頼れる裕福な家族や親戚などがいる! |